夜の帳が降りる頃、犬の散歩に出かけた。
公園はとても広く、大きなショッピングモールと高層マンションの谷間にある。

その公園のどこからか笛の音が聞こえてきた。


龍笛のようだ。


コンクリートに囲まれた空間は、深い残響音を生みだす。

どこからその音が聞こえてくるのか、すぐにはわからなかった。

不意に僕は不思議な感覚に包まれた。


龍笛の神秘的な音色。とても懐かしい音。いにしえの記憶。

無常を感じさせる音。隙間・空間・裂け目を感じさせる音。



遠くのベンチに髪の長い女性が横笛を吹いて座っている。

この奏者は何者なのか。

近づきたい。

でも近づけない。

僕は目を閉じてしばらくその音色に聞き入った。
どれくらい時間が流れたのだろうか。

様々な景色が脳裏をよぎる。
次第に浮かんでは消える背景に意識が移る。


あ、   。


思いがけず、


素晴らしい瞬間に出遭えた。




僕は、洋楽器を少し演奏できる。
でも、邦楽器にいつも惹かれる。

その人が、上手いのか下手なのか分からない。
というか、そんな価値判断は起こらなかった。



存在する、ということ。


「ある」ということへの畏怖が全身を揺さぶった。


その人はそこで「練習」していたのではない。
ある世界の開けをここで「表現」していたのだ。


奏者として存在するのでなく、音として存在していたのだ。



そうして僕らは出会えたのだった。(響き合うっていうでしょ)


とても、嬉しく懐かしい、とても貴重な時間でした。





犬はどうだったか、は、知らないけど。。。